「天才とは上達の達人である」という認識が本書の一貫したスタンスです。斉藤氏は本書で4人の著名な天才の具体的な努力を例に挙げて,「天才とは自己意志による訓練によってつくられる」という天才論を展開しています。この考え方で全ての天才の天才振りを説明できる訳ではありませんが,偉人達の最大公約数的な特徴は十分説明できます。 学生の中には努力をせずに稀有壮大な理想論を展開する者が多くいます。しかし,「具体的な努力をしないことを,天才の指標としたがる(P. 2)」ことは誤解であり,才能の有無よりも「具体的な工夫を積み重ねることができるかどうか,自分のスタイルというものをつくっていく意識を強く持っているかどうか(P. 4)」が問題だという斉藤氏の主張には非常に勇気付けられます。
本書で例示されている4人の天才はピカソ,シャネル,宮沢賢治,イチローです。この4人は,暗示的にこの人選が斉藤氏の「天才」の定義を明確にしています。既に世の中には多くの「天才論」があり,ピカソは常連の部類に入ります。宮沢賢治は一般に童話作家としての著名ですが,農業コンサルタントや宗教家としての側面もあり,「天才」という括りで登場することは珍しいように思います。また,シャネルやイチローについても様々なところで取り上げられています。この4人は斉藤氏の「天才」の定義によってその天才振りが非常に明確に描き出されています。機知の内容も多いのですが,斉藤氏の整理の仕方は非常に良い勉強をさせてもらいました。
自分の考え方と近いため,斉藤氏の天才観は素直に受け取ることが出来ました。そのため,いくつかの箇所で説明が煩雑だと感じる部分がありますが,「天才=才能」と捉えている人を想定して書かれているのでやむを得ないかもしれません。それを差し引いても読む価値がある本です。